本年2025年より、「子育てグリーン住宅支援事業」において賃貸住宅の新築が新たに補助対象となりました。なお、分譲賃宅住宅の購入は対象外です。
子育てグリーン住宅支援事業における賃貸住宅新築補助と、注文及び分譲住宅の新築補助には、要件や補助額など共通する部分がたくさんあります。一方、いくつかの明確な違いもあります。
今回は、主な違いと活用ポイントを解説します。

1. 目的と対象者
注文・分譲住宅:
- 目的: 個人が居住するための住宅の取得を支援し、経済的負担を軽減することにあります。
- 対象者: 子育て世帯または若者夫婦世帯、あるいはGX志向型住宅の場合はすべての世帯です。
賃貸住宅:
- 目的: 賃貸物件の供給を促進し、社会全体の脱炭素化にも貢献します。
- 対象者: 補助金の申請者は賃貸物件のオーナー(法人または個人)です。

2. 法人の申請可否
注文・分譲住宅:
法人: 法人が発注(購入)する場合、補助の対象にはなりません。個人が自ら居住するための住宅が対象です。
賃貸住宅:
法人: 法人が不動産賃貸業を行う目的で新築する場合も、補助の対象となります。これは、賃貸住宅の供給を増やすという目的から、事業者を対象にしているためです。
3. 入居者への条件と義務
注文・分譲住宅:
特にありません(購入者が自身で住むため)。
賃貸住宅:
- 入居者募集の優先: GX志向型住宅以外の、長期優良住宅やZEH水準住宅で補助を受ける場合、新築後最初の3か月間は子育て世帯や若者夫婦世帯への入居を優先する義務があります。
- 優遇家賃の設定: 補助金を考慮した合理的な優遇家賃を設定することが求められます。これは、補助金が最終的に入居者のメリットにもつながるようにするための措置です。
- 申請可能な戸数制限: 長期優良住宅またはZEH水準住宅の場合、該当住宅総数の50%以内に補助対象戸数が制限されることがあります。

4. 技術基準などの事前相談
注文・分譲住宅:
ありません。
賃貸住宅:
「所定の入居者募集」及び「子育て等配慮技術基準」について、申請前に事務局と「事前相談」を行う必要があります。
5. 自社施工の場合の取り扱い
注文・分譲住宅:
工事請負契約を伴わない自社施工の場合は、対象にはなりません。
賃貸住宅:
自社施工で建築する新築住宅を賃貸に供する場合は、要件を満たせば新築賃貸住宅の補助対象になります。

閑話休題
限られた補助対象
このように、賃貸住宅新築の補助対象は賃貸住宅のオーナーだけです。
しかし、個人や小さな会社は資金力がないので、「安く建てたい」が一般的です。
私見ですが、ZEH水準のメリットは理解できても、補助を受けてもさらなる追い金は用意できないのが、実態だと思います。
たぶん、補助金を活用出来るオーナーは、大規模な事業を展開しているデベロッパーといわれるような事業者では、と思われます。
もともと少ない補助対象が、さらに限定さているわけです。
高額な補助申請
さて、マンションなどの共同住宅は1棟あたりの申請戸数が多いので高額となります。
仮に、10世帯のアパートをGX志向型住宅で新築すると、160万/戸×10戸=1千600万円の補助申請が可能です。
補助事務局が急遽「事前相談」を持ち出したのは、予定以上の申請額になる想定になったためかもしれません。受付開始6/30の直前5/2に事前相談が制度に追加されたことに、国の慌てぶりが現れています。

オリンピック選手村の二の舞?
そもそも国は賃貸住宅新築補助により、「不動産賃貸業」としての事業活動を支援し、その結果として子育て世帯や若者夫婦世帯に良質な賃貸住宅を提供する、としています。
これって、米市場の価格を下げるための備蓄米の入札において、最高額を落札とした「江藤米」と同じで、ロジックが破綻していると感じてしまいます。
私の貧弱な想像力では、デペロッパー的な賃貸オーナーが国の税金を利用し、豪華な賃貸住宅を提供して、上級思考の入居者からより高額な家賃を得る。数年後には、外国籍の裕福な若者が住みつく・・・
オリンピック選手村の二の舞になるのではと危惧しています。
賃貸住宅のオーナーにお薦めします!
とは言え、お客様に有益な情報をお届けするのが建築家の責務です。そこで、前向きなかたちでコラムを締めくくります。
こうした補助金は、個人や小規模な事業者にこそ活用してもらいたいものです。「安かろう悪かろう」では、古くなると空室が生まれます。
補助金を適切に活用して、良質な賃貸住宅を提供の上、空室になりにくい資産運用の一手として下さい。